夏といえば、怪談ばなし。
広島県庄原市の猫山には、昔から人を食べる化け猫が住んでいるという民話が伝えられています。
今では地元の人でもなかなか聞く機会が少ないこの怪談ばなし「猫山の化け猫」を読んで、暑い夏にヒンヤリしてみてはどうですか。
『猫山の化け猫 ねこやまのばけねこ』
昔、猫山には化け猫が住んでおって、山に入る人々がたびたび食い殺されていたそうな。
その頃、東城の川東(広島県庄原市東城町)に鉄砲の名人といわれた猟師がおって鳥獣の殺生ばかりしていることに少々嫌気がさしていたので、これはひとつ、猫山の化け猫退治をして人助けをしようと思い立った。
夕方から山に入って身を隠し、化け猫が現れるのを今か今かと待ったが、化け猫はなかなか姿を現さない。
幾日目かのある晩、提灯をさげた人影が「お父さん、お父さんやあ」と呼びながら近づいてきた。
「お母さんが急病じゃけぇ、早う帰りんさい」と声がする。
よく見ると、それは息子の姿じゃった。
家の者にはどんなことがあっても決して山には来ちゃあいけんと日ごろから言いきかせとるし、息子が猟師の隠れとる場所を知っとるはずがない。
猟師はさんざん迷ったが、これは化け猫に違いないと意を決し、ズドーンと一発引き金を引いた。
すると、提灯の火はたちまち消え「ギャーッ」という悲鳴があたりに響いたが、それはとうてい人の声とは思えない。
まもなく夜が明け、猟師は辺りをくまなく探し回ったが、死骸も提灯も見あたらなかった。
ただべっとりとした血のりと、そこから点々と続く血の跡がある。たどっていくと、山の麓の一軒家にたどり着いた。
そこで、猟師は家を訪ね「夕べ、お宅でなんか変わったこたぁ、なかったですかの」と聞くと、「はい、うちの婆さんが雪隠(せっちん)にいった時に物干しざおで目をついたいうて寝込んどります」と答えた。
猟師は怪しんで無理やり見舞うと、お婆さんは布団をかぶって一切姿を見せない。
猟師は、迷わず布団の上からお婆さんを打ち殺してしもうた。それに驚いた家の者があわてて「お婆さんっ」と叫んで布団をとると、そこにお婆さんの姿はなく、かわりにおおきな化け猫が横たわっておった。
猟師に教えられ、家の者が床板をはがすとそこには化け猫にかみ殺されたお婆さんが白骨になって散らばっておったそうな。
歌川国芳「東海道五十三次 岡部 猫名の由来」
参考文献:「小奴可の里お宝ガイドブック」 小奴可の里自治振興区 2015年発行
by RIE KIKKAWA
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