冬の眠りから覚めた山々に、ところどころ咲く白い大きな花。
広島県庄原市に自生する「こぶしの花」です。こぶしは農家にとって重要な農事の目安とされる木で、古くからその開花や状態によって種蒔きなどの農作業を始める指標となっていました。
また、地元広島県庄原市東城町では、昔からその花のつく方向や密度によって、その年の豊作・凶作を占っていました。
全体に花つきのよい年は豊作、花が上に向くときは雨が少なく、下に向くときは雨が多いといわれていたそうです。
今年はどうなんだろう。
こぶしはモクレン科の落葉高木。早春、葉より先に枝先に雪のように白い六弁花を咲かせます。
花や木は手折ると芳香があり、香水の原料にもなるようです。
漢字では「辛夷」と書きます。つぼみをかむと芳香があって辛いそうです。だから「辛」の文字が使われているのかな。
こぶしの名前の由来は、つぼみの形が赤ちゃんの拳(こぶし)に、または秋に実る果実が拳に似ているからだとか。
「山笑う」は俳句でよく使われる春の季語で、草木が萌(も)え始めた、のどかで明るい春の山を表す言葉だそうです。
中国宋代の山水画家が遺した一文「春山淡冶(たんや)にして笑うが如く、夏山蒼翠(そうすい)として滴(したた)るが如し、秋山明浄にして粧うが如く、冬山惨淡として睡(ねむ)るが如し」に拠ります。
まだ木々の葉が出ていない山は「山笑う」少し前。
その山々にこぶしの大きな白い花が咲いている様子は「笑う少し前」の、まるで「山微笑む」といった感じでしょうか。
今日、2015年4月5日は二十四節気の「清明(せいめい)」です。
調べると「清明」とは、すべてのものが清らかで生き生きする頃、明るく輝き放つさま。草木が青々と芽吹き、清々しい空気が満ちる頃。とありました。
4月初旬は、今も昔もとても気持ちいい、清々しい季節なんですね。
冬の間、眠っていた山々がこぶしの花を一斉に咲かせ、微笑みながらスタートを切るように、4月は何かを始めるのにぴったりの季節だと思いませんか。
by RIE KIKKAWA
参考文献:
『東城町史 自然環境考古民族資料編』(東城町 1996年)
『昔ながらの日本の暮らし 二十四節気と七十二候』(宝島社 2014年)
『四季の山野草』(緒方出版 1990年)
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