広島県で唯一、国の重要無形民俗文化財指定を受けている神楽『比婆荒神神楽(ひばこうじんかぐら)』の世界をのぞいてみませんか。
2014年11月15日に地元の奴可神社で恒例神楽『比婆荒神神楽』が奉納されました。
本来は式年に民家で行われる比婆荒神神楽ですが、奴可神社では小奴可地域のあちこちに祀られていた荒神社を境内の同じところに一緒に祀った際、その時の約束事として、毎年奴可神社で神楽が奉納されるようになりました。
比婆荒神神楽(ひばこうじんかぐら)とは
比婆荒神神楽は、東城町・西城町(広島県庄原市)一帯で継承される神がかりの神事(トランス)、荒神信仰の芸能要素を含む神楽です。
式年と呼ばれる年(7年・9年・13年・33年目など、地域によって異なる)に、2日1晩(※)に
わたって比婆荒神神楽社(比婆荒神神楽の舞手組織)と神職が共同で奉納しています。神楽は当家(とうや)とよばれる民家で行われます。※古くは4日4晩にわたって奉納されていました。
神楽といえば、最近の神楽ブームで、広島県内ではいくつもの神楽イベントが行われ多くの人が集まります。その物語の普遍性ときらびやかな衣装、華麗な舞いが多くの神楽ファンを惹きつけています。でも、そんな人気になっている神楽と比婆荒神神楽はどこが違うのでしょう。
神に対して舞う「神事(かみごと)」、神と人の両方に対して舞う「芸能」、人に対して舞う「演劇」
比婆荒神神楽は、古い神楽のかたちで、神職がトランスする神がかりの神事を伝える鎮魂の要素を色濃く残しているのが大きな特徴で「芸能」に分類される神楽です。
この特徴は、全国でもまれで、国の無形民俗文化財に指定された大きな要因になっているといわれています。
比婆荒神神楽保存会会長の横山邦和さんは、「神楽はもともと神前で奉する舞楽であり、神様を崇めるというもの。比婆荒神神楽は、神に対する信仰とともに地域の共同体の結びつきをつくる行事
だ。」(広報しょうばらより)と言っています。イベントの神楽は人に対して舞う「演劇」神楽、比婆荒神神楽は神様への信仰があってこその「芸能」神楽、そこが違うのです。
舞を楽しむだけじゃない、比婆荒神神楽の持つほんとうのパワーとは
神楽を行うまでには、さまざまな準備が必要です。祭壇を組んだり、供え物の準備、お宮の掃除や草刈り、しめ縄の作成、当日神楽が行われる家(当家)の神棚飾りや片づけなど、また、当日には神職や舞手全員の食事もつくります。昔はこれらの準備をすべて当家がしていたそうですが、今は家族の人数が少ないため「名(みょう)」といわれる小集落単位の各家が協力して行っています。
地域に住む人々の協力なくしてはできないのが、『比婆荒神神楽』なのです。
昔は、農作業を共同ですることが多く、日々の付き合いからけんかもよくありました。それでも狭い集落で良好な人間関係が保たれてきたのは、神楽の存在が大きいと奴可神社前宮司の中島好昭さんは言われていました。日頃は関係がうまくいっていない者同士でも、神楽の準備をいっしょに
する=「神事」ということになれば、わだかまりもなくなり仲直りのきっかけにもなったそうです。神楽には、地域に住む人を一つにするパワーが、今も昔も変わらずにあるのです。
神様と人が一緒に和やかに楽しむ神楽
比婆荒神神楽では、まず「七座神事」と呼ばれる祭典を行います。この「七座神事」で繰り返し場を祓い清め、神様をお迎えします。そう、神様をお迎えしないことには何も始まらないのです!
そして、神様をお迎えした後、いよいよ能舞が奉納されます。能舞の演目には「国譲り能」「八重垣の能」などがあり、日本神話の知識があるとストーリーがよくわかってとても面白いです。
神様と一緒に夜通し神楽を楽しむとは、特別な、そしてとても貴重な時間だと思いませんか。
参考文献:『東城町史 自然環境考古民俗資料編』(東城町 1996年)
「恒例神楽によせて」(奴可神社前宮司中島好昭 2012年)
「広報しょうばらNo.104 」(庄原市 2013年11月号)
by RIE KIKKAWA